熊野町東防災交流センターは、平成30年の豪雨による土砂災害を受けて、安全な避難場所をより多くの町民に提供できるよう計画された。災害時の避難所であることはもちろん、日常時には地域の方々の交流の場となることが求められた。
災害時に浸水被害があっても問題がないように、大勢の人が集まる防災ホールや、炊き出しに欠かせない調理実習室等を2階に設け、そこへ誰もがバリアなく避難できる長いスロープを設ける計画とした。氾濫のリスクがある川に向かってスロープ壁の背面を向けることで、水を受け流す配置となっている。また背後の道路からアクセスする人もすぐに二階に上がれる屋外階段を設け、様々な方向から二階へと自然にのぼることができる。また、ペット同伴の方も避難しやすいよう、屋外から直接アクセスできる講義室をペット同行者避難スペースとし、独立した屋外からのアクセスルートを設けた。これらの場所については、設計プロセスにおける町民の方々との対話や、専門家へのヒアリングに基づき計画が進められてきた。
一方で熊野町は、筆の生産で知られるものづくりのまちである。螺旋状の空間を生かして、ものづくりのまちにふさわしい、訪れる人の記憶に刻まれる驚きのある空間を作りたいと思った。そこでコンクリートの量感ある外観が、小さな山のような存在としてまちを支えるシンボルとなってほしいと考えた。エントランスを入ると螺旋状の大きな吹き抜け空間と出会い、天井のハイサイドから格子を通して光が差し込んでくる。光に導かれ奥へと向かうに従って抑揚ある空間が展開していくよう設計した。一階には、大きな木のテーブルがある地域カフェや、ギャラリーとなるフリースペース、ライブラリーコーナーなどが、湾曲する壁沿いに続いていく。階段を二階に上がると、和室の縁側や、腰壁に沿った読書テーブルなどが、やはり流れに沿って展開し、中央の丸い防災ホール内へと導かれる。防災ホールには屋外に向かう大きな窓とハイサイドライトがあり、景色を楽しみつつ、光の印象的なホールとなった。
災害時には避難用として使われるスロープも、日常的には広場の桟敷席となり、トリアージュスペースとしての軒下は屋台の並ぶイベントスペースとなるなど、非常時も日常時も、それぞれの場所が熊野町の皆さんに愛される場となることを願っている。