家を設計していると、不思議とお施主様に子どもが生まれることが多い。はじめは夫婦2人と考え始めたものが、お腹に赤ちゃんがいることを知って、想像でしかなかった子ども部屋が、突然一人の大切な人のものになる。夫婦の表情も、家に対する考え方も、少しずつ変わっていく。家をつくることの素晴らしさのひとつは、育っていく家族を目の当たりにしながら、一つ一つの場所について考え続けられるところにあるのではないか。家の中の場所は、どれもかけがえのないもので、一つとして繰り返し現れたり、無駄だったりする場所がない。また、家というのは設計から現場、そのあとに住み始めるまでが連続的なものだと感じる。どこまでも終わりというのがない。現場でもずっと空間は変化していくし、出来た後に住みこなされる中で、家はまた大きく育っていく。そのようなことを想像しながら、一つ一つの場所を考え続けて、この家は出来た。玄関は細い路地になっていて、その路地は平面的に折れ曲がりながら敷地の奥までずっとつながっている。路地は町家の通り庭のように、家の中の半屋外空間として土間となっており、キッチンや洗面などの水場は全てこの路地空間におくことにした。また、路地は2層分の吹き抜けになっていて、そこへ様々な光が差し込んで来る。まず玄関の奥で路地は一度折れ曲がるのだが、そこはラワンベニヤの仕上げに囲まれ、大きな窓の外に隣家の緑が影をつくり出すほの暗い空間、さらにもう一度曲がると腰よりも低く下がって来る勾配屋根に沿って上からやわらかい光が降ってくる空間、さらに奥に進むと、真っ白い壁に挟まれトップライトからくっきりとした光が差し込んでくる洗面空間へとつながる。施工の期間中、現場で長い時間を過ごしていると、連なる路地のあちこちで、ある時は西からの赤い光、ある時は朝の青っぽい光が差し込んで来て、はっとすることがあった。そんな風に、家族が長い時間をこの家とともに過ごしていく中で、ふとした瞬間に光のきれいさや、窓の外の景色に心が動かされるような家になってほしいと感じている。