Project
4_PARTICIPATING WITH DRAWING
Year2020
Lecturer
ISABELLE DAËRONイザベル・ダエロン/デザイナー
photo
Yurika KONO高野ユリカ

Participating with Drawing

イサベル・ダエロンとの対話

2020年12月5日
17:00 – 18:00 プレゼンテーション
18:30 – 20:00 フランス・パリにいるイザベル・ダエロンと会場とのディスカッション(オンライン)

2019年、ダエロンはパリ市の都市デザインプロジェクトの一環で20区にあるブランシャール通りに猛暑に悩まされる都市のクールダウンシステム Aéro-Seine(アエロ・セーヌ)をデザインした。 それは19 世紀に使われていた水道管を利用して水場をつくるもので、当時すでにセーヌ川の水を循環させて、都市の清掃や庭園の水やりに使っていた事実を参考にしたシステムだ。ダエロンはそれを実現させる前から、ドローイングやアートプロジェクトの機会を使って都市空間の水の循環についての問題を提起していた。その作品は実にプレイフルでカラフル。一見、シリアスな問題を扱っているように見えないけれど、彼女は着々と問題の解決にむかって呼びかけを続けていた。そのアプローチの方法を伺った。

イザベル・ダエロン

1983年フランス生まれ。リサーチデザイナー、ENSCI-Les Ateliers卒。人間と自然資源が共存するためのシナリオを作ることを課題としている。プロダクト、都市、空間デザインなど、分野を横断し、環境問題と循環、モビリティー、パブリックスペースなどを視野に入れたプロジェクトを行っている。またTopique(トピック)と名付けた課題を設定、その解決に向けてのアイディアをかたちにしている(例えば、Topique-cielは雨の後の水たまりを鏡に見立てることで都市空間にある資源の見方を変えること、Topique-feuilles は地面に落ちた落ち葉を騒々しい屋外用掃除機で掃くのではなく風で吹いてもらうというプロジェクト)。

実現するために描く

文・構成:永井佳子

プレゼンテーションについて:
2019年、ダエロンはパリ市のデザインプロジェクトの一環で20区のブランシャール通りに、猛暑に見舞われる街のクールダウンシステムAéro-Seine(アエロ・セーヌ)をデザイン、設置した。19世紀のパリではセーヌ川の水を街の清掃や庭園の水やりに使っていたという歴史的事実を参考にして、当時の水道管を再利用して水場をつくるというものだ。ダエロンが都市空間の水の循環について、問題を提起する方法は実にプレイフルでカラフル。一見、シリアスな問題を扱っているように見えないけれど、彼女は着々と問題の解決にむかって呼びかけを続けている。

― 「Aéro-Seine」のプロジェクトをどのように実現したのですか?

「Topique」 (i)というプロジェクトを10年あまり続けてきました。公共空間での日光や水や風といった自然エネルギーの循環を考えるという内容です。2015年からはセーヌ川から引いてきた水のネットワークを使って、飲めない水の使い道のリサーチを始めました。パリでは19世紀半ばからこのネットワークを使って、セーヌ川の水を道路掃除や緑地の水やりのために使っていたのです。そういう用途のためは浄水した水を使う必要ありませんから。でも20世紀になるとこのネットワークが使用されなくなったのです。この内容に関して助成金を得たことをきっかけに、飲めない水に関する三つのプロジェクトを立ち上げました。ひとつは浄化システム付きのプール。ここに溜めた雨水を庭の水やりに使うために「Chantepleures(シャンテプリュール)」というじょうろも作りました。二つ目はアパルトマンの共用部を掃除するためのクリーニングポイント。それから夏の公共空間でのヒートウェーブを緩和するためのクールダウンポイントです。2018年には3番目のアイディアをブラッシュアップさせて「アエロ・セーヌ」と命名し、パヴィリオン・デ・アルセナル(ii) が企画したパリ市内のイノベーションプロジェクトのデザインコンペに参加し、結果的にパリの20区のリデザインプロジェクトに選ばれました。

― パリ市とプロジェクトを共同して進行していかがでしたか?

とても大変でした。市役所の6つか7つの部署とやりとりをしました。ひとつ問題が上がると、全員を集めて担当者を見つけ出さなくてはいけないのです。パリ市には中心部を担当する部署のほかに全部で20区の部署があります。中心部はこういうイノベーティブなプロジェクトに開かれていますが、そのほかの地域を担当する部署はそうではありません。こうしてパリの現実を目の当たりにすることになったんです。市の技術、行政に関わる部署とのコーディネーション、ワークショップを通じて住民を巻き込むこと、企業との協働、その他いろいろ。たくさんのことを学びました。

― もともとのアイディア「Topique」はポエティックでコンセプチュアルですよね。次第に公共空間でアイディアを共有していきたいというように思うようになったということですが、実際、コンセプチュアルなプロジェクトを実現するのは難しい。個人的なことに思えてしまうからです。このアイディアをどのように実現したか、説明していただけますか?

最初は自然エネルギーの循環と公共空間に必要な機能のあいだでうまくバランスをとれるものをデザインしようと考えていました。それで水や日光や風といった課題に取り組むことで、「Topique」というプロジェクトがだんだん組み立てられていったのです。最初はドローイングや模型や計画からはじめて、徐々にアートプロジェクトや展覧会に参加し、プロトタイプやインスタレーションを作っていきました。そのうち展覧会のためにつくったインスタレーションが数ヶ月後には壊されてしまうことに不満を感じるようになったのです。公共の空間でこのインスタレーションを作りたいと思って、実現するのに10年間かかりました。技術や法規や他の会社や市の技術部と協働することを学ぶ時間が必要だったのです。

― 「Topique」というアイディアはギリシャ語の「Topos」というボキャブラリーからきていると言いますが、地域の環境との関係を特に大切にしているのですか?

もちろんです。グローバライズされていくなかで地域を守ることは大切です。と同時に、詩的な観点から言えば地域や場所からインスピレーションを得ています。その場所にしかないこと、歴史や資源や伝統を理解しながらものや空間のデザインをするということが好きなんです。パーマカルチャーにも興味があるのは、地域と循環に基づいたシステムだからで、私のデザインが目指そうとすることに近いからです。

― 地域の環境に関する公共プロジェクトに関わるとき、建築家や都市計画家と働くことがあると思いますが、そのなかでデザイナーとしてなにが大切だと思いますか?

都市に関するプロジェクトの答えは突然現れるものではありません。大切なことはチームをつくって、それぞれが相応しいところに関わり、歴史、技術、社会、環境といった多様な側面を交換しあうことです。

― デザインで何かの問題を解決しようとすると、どこかつまらない結果になることがあると思います。でもあなたのプロジェクトはシステムそのものをデザインしているのに、とっつきやすくて、しかも楽しい。自分のデザインの見え方について常に考えていることはありますか?

あらかじめこういう風に見えるべきだと考えてはいませんが、場所とオブジェをどのように調和させるかを考えています。たとえば植生とその環境が相互に関わり合っているように。それとシンプルな形と色を使って、一般の人々に技術的なことをはじめ、物ごとがどのように成り立っているのかをわかるように心がけています。

― あなたのドローイングの色使いはとても特徴がありますね。色について考えていることはありますか?

私はいつもフェルトペンにある色を使っています。ドローイングを描くときは、あまりリアルになりすぎないよう、できるだけ物語的にするようにしています。どのドローイングもプロジェクトの夢の姿なのです。あと、私は線の連なりでドローイングを組み立てていくことが好きですね。最初はどの色を使うか決めていません。段階的に作っていきます。ドローイングをしているとき、「間違っているかもしれない」というリスクを負っているような感覚が好きなんです。例えば、草の茎を描こうとして失敗して野原に展開していく。これがドローイングをしているときの自由な感覚です。色についても同じです。

― あなたのドローイングと実現したものはほぼ同じような見た目なのに驚いています。プロジェクトが始まる前にドローイングをするのですか?アイディアを描いたものがどうして現実とそっくりになるのでしょう?

リサーチの後、場所、方法や循環などそれぞれのアイディアを統合したあとにドローイングを描きます。これが実現に役立つのです。 この方法でプロジェクトに取り組むようになったのは学生のときからです。当時はプロジェクトを立ち上げても適切な方法を見つけるのが難しかった。だから実現しそうな理想のプロジェクトを描くことから始めたのです。ひとりでプロジェクトに向かっているとクライアントを見つけたり、プロジェクトを文脈に当てはめたりすることが難しいのです。ドローイングはプロジェクトの最初の姿です。そして自分がやっていることを信じるための一つの方法です。OK、こうして見えるようになったから、あとは予算を立てて、実現するためのクライアントを探してこないと、ってね。 私のドローイングとその結果がよく似ていると驚かれます。比率や材料や色という点ではオリジナルのドローイングとは少しずつ異なっているけれど、骨子は同じです。

― デザインを思考するプロセスに関して、リサーチドローイングという方法はとてもユニークだと思います。どのようにそういう方法に至ったのですか?

リサーチを視覚化するために、リサーチドローイングという方法を15年前から続けています。プロセスは有機的です。まず、一枚の紙に分析的な要素(写真、構造的なディテール、ダイアグラム、テキストからの断片)そして感覚的な要素(質感、出典、形など)を描いていきます。これは自由な作業、何をやってもいいのです。デザインとして提案することだけを考えるのではなく、プロジェクトをいろいろな側面から考えてみます。だからあらゆる事柄のきっかけを探すことが大切です。 このリサーチドローイングは次第に拡大していきます。プロジェクトに関わる時間を反映していきたいからです。それぞれの要素の関係性を描きこみながら、繰り返し現れることが出てきたら、ある意味、要素がひとつにまとまってきたということです。背景があってフォルムがあるというような物質の優先順位をつくるのではなく、技術的、分析的なことと感覚的なことを含めたすべてを一緒に考えることです。

― 現在の状況と来るべき未来という意味であなたのドローイングはテクノロジーとファンタジーを同時に示していますね。子供でもあなたのドローイングを見て面白がると思います。つまり専門に関わる人々ではなくても、その問題と結果を理解できる。どのようにこういった表現の仕方に行き着いたのでしょうか?

雨のように突然空から降ってきたわけではないのですよ。どんなインスピレーションも現実に起こっていることや、リサーチの段階、一般の人々にプロジェクトをわかりやすくしたいという思いからです。ものや空間を通じてひとつの物語を伝えるということです。

― あなたにとって「Habitation」というのが最も大切なモチベーションであると言っていましたね。そのことについてもう少し詳しく説明してもらえますか?

私は「Habitability(居住可能性)」という考え方を居住可能なスペースの質という意味で使っています。人間のための居住空間を作ること、でもそれは必ずしも建物ということではありません。学生のときデザインに関する本を読んでいたときに、よくこの言葉に出会いました。デザインや建築は世界を居住可能な場所にするための役割があるということ。素晴らしい考え方だと思ったのですが、正直、そのときはその意味がよくわからなくて。サステイナブルな世界を作ることにも密接に関係していると思います。 人間と自然の関係性を考えたときに、実際には技術ですべてを解決しようとしがちです。大抵、世界を居住可能な場所にするために規格を作って、それに沿って建物や場所を作ることに終始している。でもそうすると人間を環境から切り離すことになってしまうのです。例えば、真夏を凌ぐために室内でエアコンを効かせるというのは、技術だけで問題を解決しようとしている。技術に頼っているのです。 デザインにはその時代、社会、環境、経済の課題を反映するようなかたちで世界を変える役割があると思います。これがデザイナーや建築家が直面している課題です。つまりどうやって自覚的に技術を取り入れるかということです。居住可能な空間をつくるとき、機能的なことと同時に精神的な課題にも答えなくてはなりません。世界を取り巻く課題やリスクに答えるために技術の配置の仕方を考え、ちょうどよいバランスを見つけることが大切だと思います。

ⅰTopiqueはダエロンが2003年から取り組んでいるリサーチプロジェクト。人間の居住空間のなかで自然資源をつかうことに注目したもの

ⅱパヴィリオン・デ・アルセナル(Pavillon de Arsenal)はパリの都市計画や建築に関する情報、記録、展示に関する場所。